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学習会
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第27回「野生動物と暮らす ータンザニア・セレンゲティ国立公園と村人のこれまでこれからー」

講演日:2006年2月9日

講演者:岩井雪乃氏(早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC) 講師)

○岩井さんのアフリカとの関わりの経緯: 
東京農工大学農学部環境保護学科で動物生態学を専攻  
大学3年生の時、ケニアに2週間滞在 
1993-1995年 青年海外協力隊で、タンザニアで数学教師 
1996-2005年 京都大学大学院 アジアアフリカ地域研究研究科で修士・博士・研究員 
         この間、通算2年間、フィールドワークとしてタンザニアに滞在 
2005年4月〜 現職 
ボランティアプロジェクト「エコミュニティ・タンザニア」を開始、「NPO アフリック・アフリカ」  
「NGO アルディナウペポ」を運営。

○A村の様子について 
セレンゲティ国立公園の観光客用のホテルは一泊2万-3万で、フルコース付きという豪華なものです。 
この国立公園には柵がなく、公園と地続きで人口2500人ぐらいのA村があります。 
岩井さんがフィールドワークで運命的な出会いをされたという、そのA村に住む地域住民、イコマの人々の暮らしについて、紹介していただきました。

イコマの人々は複合的な生業を営んでおり、食事は、ソルガムを使用した赤いウガリ、野生動物の干し肉を煮戻したもの、スープといったものです。 
生業は、畑でウガリなどを作り、家畜を財産として持つというスタンスをとっています。
この地域は雨が少なく、この時期は干ばつによる食糧問題が心配される上、畑を荒らす野生動物がいつやって来るかわからないため、畑の見張り台に一日中座っていなければなりません。 
現金収入活動としては、日雇いの土方アルバイトや、キャッサバやトウモロコシなどを使った地酒作りなどが挙げられます。 
今や狩猟は少なくなりましたが、今でもアイデンティティは「狩猟民」という人が多いそうです。

狩猟の的でもあるセレンゲティのヌーは、季節により移動する習性があります。 
雨季は国の中心部に住み、乾季はマサイマラに移動するため、その途中でA村を通ります。 
ヌーが村を通るこの時期が、A村の人にとってのチャンスです。 
ヌーを獲って食べたり売ったりして、農作物の不作をヌーで補うといった、生態環境に適応した暮らしをしているそうです。

しかし、自然保護法ができてから、そういった人々の暮らしに問題が起きています。 
国立公園と地域住民の問題を、保護政策の年表とともに見ていきました。

○保護政策の返還

<狩猟規制の実行性なし> 
1918 イギリス委任統治領 (白人には「人がいない野生動物の王国」に見えた) 
1921 猟獣保護法の制定 保護区内での狩猟禁止 
1940 セレンゲティ国立公園設立 
1951 セレンゲティとンゴロンゴロ自然保護区に分割 (境界線確定) 
1964 タンザニア共和国成立 (イギリスから独立) 
<原生自然保護> 
1974 野生動物保全法の制定(保護区外での狩猟も認可制に)・集村化政策(村人は強制移住を強いられる) 
1980 公園パトロールの強化(商業的狩猟による象とサイの激減) 
<住民参加型> 
90年代〜 「住民参加型自然保護」開始 
2003 Wildlife Management Area ガイドライン

○「国立公園−住民の問題」は、主に以下の4つに分けられます。

1.土地  2.狩猟  3.観光利益の共有  4.野生動物の被害 

これら4つの問題を踏まえたうえで、参加者は4つのグループに分かれ、それぞれ「どのような解決法が考えられるか?」というテーマでディスカッションをしました。 
以下は、岩井さんが説明してくださった問題の現状と、それぞれのグループで話し合われた発表内容です。

1. 土地  
かつて、村の人たちは移動生活をしていましたが、1951年にセレンゲティ国立公園ができてから、保護地域に入ることができなくなりました。 
タンザニア政府のやり方は巧妙で、法律制定時は地域生活に支障はなかったけれど、1970年代頃になると徐々に規制が厳しくなり、住民が強制的に移住を強いられるようになりました。 
1999年、さらにA村を脅かしたのは、政府からアメリカの観光企業Gへ、土地をリースし始めたことです。現在この土地はG社が利用しています。 
こうした政策の結果、A村の人々がそれまで使っていた土地の3分の1の地域にしか住めなくなり、一方で人口は増えていく、といった状況が、人々へ窮屈な生活を強いています。

<ディスカッション> 
・企業と村の関わり: 企業側から村に対して、ホームステイや地域の料理を味わうなどの企画をしてはどうか? 
・政府との関係: 村の人が、土地を確保する旨を示した文書を政府に提示してはどうか? 
・他の村との相互協力: 学校などを通して、村人同士の付き合いを深める。

2. 狩猟問題 
1970年代以前の狩猟は、弓矢によって行われていましたが、車にのった公園パトロールが始まって以来、狩猟が見つかった場合にはレンジャーから殴る、蹴るの暴力を受け、亡くなる人もいるといいます。 
その後裁判にかけられ、有罪になった人は過酷な刑務所に入れられ、保釈金(裁判官へのわいろ)のお金は棒大で、家も、家族も台無しになってしまいます。 
このため、最近の若い人達は「狩猟は危険」という考えから、あまり狩猟をしなくなったそうです。 
とはいえ伝統の狩猟を守ろうとする人たちは、レンジャーにばれにくいワイヤー製の罠などを使ったスタイルの狩猟に変えてきています。

「では、公園側が懸念しているほど、狩猟による野生動物の個体数に大きなダメージが出ているのか?」という疑問から、岩井さんは、「副食素材に占める野生動物の割合」について、調査をされたといいます。 
結果は「村の人々の事のうち、野生動物は10%、つまり10日に1回食卓にのぼる」といったものでした。 
またセレンゲティ国立公園内におけるヌーの個体数は減っておらず、たとえ減った時期があったとしても気候のせいで、狩猟のせいではない、と岩井さんは判断しています。

肉を全く食べなくなったら、イコマの人々の生活にも支障をきたします。 
「狩猟はつづけたいけれど、危険だから続けられない」というのが、村の人々の現状だそうです。

<ディスカッション> 
・狩猟を全面禁止するのではなく、科学的根拠に基づいた規制をしてはどうか。(ex. 村の人は1ヶ月に○頭まで、など) 
・過去の生活スタイル、文化的アイデンティティを保つ方法を。 
・村の人に、ある程度の土地利用権利を与える 
・村の人レベルで変えようとすることは難しいけれど、村の人々自身が変えていく必要がある。→他の村との関係や、外国機関に訴え、パイプ役にする、など 
(岩井さん補足: 外国機関は、今は人よりむしろ動物保護に重点をおいているのが現状)

3. 観光利益共有の問題  
世界中の観光客数はふくれあがり、2000年より、観光客35万人にのぼり、2005には年間40万人と、公園内のホテルは予約でいっぱいです。 
企業は「村に利益を還元しよう」「入園料を村の収益にしよう」という動きから、観光業収入を井戸のポンプ、小学校の教室などのインフラ整備、割当制の野生動物肉配給、村の敷地内にテント型のホテル(A村には3軒)を建て村の直接収入にする、等の対策をとっています。 
しかしこのように、村の財政支援としてはお金が入っているものの、どれだけ個々の世帯の収入につながっているのか?ということを考えると、首を捻らざるを得ません。

観光ホテル、政府による参加型プロジェクトの一環としての村の現金収入は、主に以下の3タイプです。 
・「国立公園タイプ(52世帯 35%)」日雇い労働者・正規雇用・肉御など 計4職種  
・「村内タイプ(113世帯 74%)」  
・「混合タイプ(15世帯 10%)」 軽食堂 キオスク バーなど 
けれど、教育を受けていないと観光業等高い収入の仕事には就けず、村の人は主に日雇いや村内での労働に就かざるを得ないため、結局そこには貧富の格差が生まれます。

<ディスカッション> 
・ガバナンスの成長 村の人の力をどうやって政府に伝えるか: 村と政府のパイプ役になる「人」が必要ではないか。 ex. 協力隊、JICAなど外部からの協力 
・観光客は何をしてほしいのか?: 村の人との交流、文化とのふれあいをツアーに組み込んではどうか。ex. キッチンで村の人と料理、サファリパークの運転手を地域の人にやってもらうなど。そのために技術教育が必要。 
(岩井さん補足: 政府や外国観光産業は嫌がるだろう。現状としては、州に一旦利益が行き、世帯間に行き届いていない。)

4. 野生動物による被害 
象による被害が一番の問題だといいます。村の家の畑を食い荒らす象は記憶力がよく、同じルートを何度も通る習性があるため、大抵の畑は、3回は同じ被害に合うそうです。 
村の人が畑を守ろうとして象に殺されるという事件もあり、武器らしい武器も持っていない村の人がかなう相手ではなく、深刻な問題です。 
タンザニア政府は、絶対に象を殺すという方策はとらず、地域住民から報告があれば、パトロールカーがきて空砲を鳴らすだけという一過性の対処をとり、その瞬間は象も逃げるけれど、2〜3日したらまた戻ってきて、村や畑を荒らすといった繰り返しです。

<ディスカッション> 
・象の移動性を活かし、誘導コースを作ってはどうか? 
 :定期的に音を発する装置を作る 
 :象だけに効く超音波や、象が嫌う匂いの植物を植える、など 
(岩井さん補足: 象の嫌がる植物としては、タバコや唐辛子などの刺激物があるけれどそれらも簡単に踏み越えられる。超音波については、今後の研究に期待の余地あり。)

今回の岩井さんのお話をお聞きして、植民地主義の名残を感じざるを得ませんでした。 
もともと人の住んでいた土地や、人々の食生活に根ざした野生動物をめぐって、政府や外国観光業が主な恩恵を受ける一方で、地域の人々の土地が奪われ、暮らしが窮屈になってきたという事実は、私たちの生活と無関係ではないように思います。 
日本で、アフリカといえば、「サファリ」というイメージを持ちがちですが、野生動物と地域の人々との関係、また国立公園や保護政策と地域の人々の生活への影響について、知ることは、アフリカでの観光産業が活発化している現在、重要なことなのではないかと大変考えさせられました。